保護者の生声大集合!
見えてきたASDと子育ての悩みの実態
レポート4を通して、ASD(自閉症スペクトラム)の子どもの「好きのパワー」にまつわる様々なエピソードを見てきたね。今回は、ASDの子どもの保護者から寄せられた「子どものASD特性に関する困りごと」について生声を集めたよ。どんなことに困っているのか具体的に見ていこう。
子どものASD特性に困っている
保護者は6割以上
具体的な生声を見る前に、まずはASDの子どもの保護者による子育てへの意識調査を見てみよう。
注目してほしいのが上位3つの項目。「1位:正解がわからない」、「2位:不安がある」、「3位:大変」と、それぞれの項目での典型発達の保護者よりも高い数値になっていて、意識のギャップが明らかになったよ。
また、「8位:難しく考えてしまう」、「9位:辛い」、「10位:日常生活に幸せを感じる)」についても、典型発達の保護者との意識のギャップが大きく、総じてASDの保護者のほうが子育てに対して難しさを抱えている様子が伺えるね。
さらに、次のグラフを見ると、ASDの子どもの保護者の実に6割以上が「子どものASD特性について困っている」ということがわかったんだ。
保護者の悩みの多くは
「周囲の理解や対応」について
次にASDの子どもの保護者は具体的にどんなことに悩んでいるのか、困っているのかを見ていこう。ASDの子どもの保護者から寄せられた生声を9つに分類したよ。
【一見、他の子どもと変わらないため、発達特性が理解されにくい】
外見上ではASDということが分からず、特性や困りごとが理解されにくいことや、発達障害とひとまとめにされてしまうことなどで、ちゃんと一人一人の特性を見てもらえていない、適切なサポートを受けにくいという悩みがあるんだ。
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【女子】12歳の保護者
見た目は普通、空気も読める、一般には真面目に見られる。その為、周りからは親が過保護で心配症と言われてること。見た目が普通でも、アスペルガーで毎日ストレスがMAXなことなど理解してもらいたい。
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【男子】11歳の保護者
話はするし、難しい言葉も使えるので一見、何の問題もなくコミュニケーションを取れるように思われがちだが、とっさの一言が言えなかったり困ったことが言えなかったりするので理解して欲しい。
【行儀が悪く見られたり、保護者に原因があると思われてしまうことも】
挨拶が苦手だったり、独り言が多かったりすることで、周囲から「変な人」という風に見られてしまうことも。そしてそれらの原因が保護者の対応にあるという捉えられ方までされてしまうことが、悩みにつながっているみたいなんだ。
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【女子】8歳の保護者
低緊張で身体がふにゃふにゃしているので姿勢が保てずお行儀悪くみられる。知的障害と併合で協調運動が苦手で不器用。日常普通にできることができない(お箸、ファスナーしめ、ちょうちょ結びなど) 。
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【男子】11歳の保護者
周囲に気味悪がられてしまう。私が叱ってばかりでうるさいと児相に通報された事もある。周囲からしたら迷惑でしかないだろうが、どうしようもない。
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【男子】19歳の保護者
はたから見たら、性格と躾の悪い子供だと思われていると思うが、そうではなく、それは先天的で治らない、矯正できない、ということを理解してほしい。
【近親者からも理解が得られず、ストレスを抱えてしまう】
近親者を含め周囲からの理解が得られにくいことで、ASDの子どもの保護者が誰にも相談できずに悩みを一人で抱え込んでしまうという問題もあるんだ。その結果追い詰められてしまい、ストレスをためてしまうことも。
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【男子】4歳の保護者
夫はよく理解しているが、祖父母には全く理解してもらえず、息子特有の特徴に合わせた私の対応を批判ばかりし、説明してもわかってもらえずストレスをかかえている。
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【男子】5歳の保護者
夫が子どもの障害の診断名を知らない。障害に対する理解がなく、調べようともしない。医療機関や療育機関とのやり取りは母親である自分のみが行っている。自分の両親(子どもにとっての祖父母)に障害を説明しても、昔はそんなもの(発達障害)はなかったと言われ、理解どころか説明すら受け入れてもらえない。
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【男子】15歳の保護者
支援学校に通い、病院にも通院しているので日常の支援は得られているが、夫や義父母、実家の親からは理解されていないと感じる。軽度であるため、「やればできる」「勉強させないほうがダメ」など、育て方が悪いように言われてしまう。
【専門家でない人からのアドバイスにうんざり】
例え悪気はなくても、ASDに正しく理解のない人から「こうしたら」「ああしたら」と言われてしまうことに疲れてしまうという声も。過度の干渉も、ASDの子どもの保護者を追い詰めてしまうことがあるんだ。
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【男子】6歳の保護者
うちの子は中度~重度の自閉症、知的障害なので内容を伴った会話ができない。それに対して「こうすればいいんじゃない?」とアドバイスされる事がある。口頭でアドバイスされるようなことはとっくに試しているので、精神的に余裕が無いときにはうんざりする。
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【男子】13歳の保護者
発達障害だというと「違うんじゃない?」と言ってくる人がいる。こちらは専門医に診断してもらっている。一部の子供の様子だけで日常の生活を知らないのに簡単に言わないでほしい。
【発達障害をひとくくりに捉えられてしまい、個々の特性を見てもらえない】
子どもの数だけ違いがある発達障害への理解が得られず、それぞれの特性に合ったサポートが得られにくいという意見もあったよ。発達障害という言葉でまとめるのではなく、一人一人と向き合って欲しいと思っているようなんだ。
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【男子】10歳の保護者
デイサービスを利用したりしているが、ベテランのスタッフさんでも、スペクトラムだからと一括で理解したつもりでいるのがつらい。特徴は似てるところはあるかもしれないが、度合いとか特性はそれぞれに違うのでちゃんと個人でみてもらいたい。
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【男子】7歳の保護者
発達障害は全部1つに考えてる人が多くそれぞれの特性を理解せず、腫れ物に触るような感じで関わらないようにする人が多い。
【グレーゾーンの子どもには、ASDの診断がないための特有の問題がある】
活用できる福祉サービスに制限がある中で、典型発達の子どもたちと同じように過ごすことが難しいは難しい…。そんなグレーゾーンの子どもの保護者にも特有の悩みがあるんだ。
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【男子】13歳の保護者
療育手帳が取得できないレベルの発達障害の子どもは、進学先・就職先・福祉サービスの幅が狭い。一見普通の子どもに見えるので、手帳がないと健常者の底辺、というポジションから抜け出せない。それが子どもの自己肯定感の妨げになっていると思う。
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【男子】18歳の保護者
発達障害でもグレーゾーンにいる親が一番大変だと理解してもらいたい。グレーであるが故に福祉サービスも制限があったり受けられなかったり現状は厳しい。かといって普通に働けるかというとコミュニケーションが苦手なだけに支援無しで社会に出ること自体が前途多難。
【本人の困りごとをケアするような周囲の対応をお願いしたい】
コミュニケーションが苦手なことについてまだまだ周囲の理解が進まず、どこに困りごとがあってどうして欲しいのか、周囲に理解を求める声も。
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【男子】6歳の保護者
ことばの裏の意味を読み取ることが苦手なので具体的にはっきりと話して伝えてほしい。自分から発信することや新しい事、新しい環境が苦手なので無理じいをするのではなく根気よく付き合ってほしい。
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【男子】10歳の保護者
自分の目の前から何も言わずに走っていなくなってしまわれることを異常に嫌がり、追いかけて問い詰めたり、押したり、叩いてしまったりする。周りの友だちは、なるべく走らずに登下校したり、「○○だから走って帰るね、バイバイ」などと言ってもらえるとありがたい。
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【男子】11歳の保護者
口頭で一度にたくさんの指導をすると、パニックになることがある(見た目にはパニックになっているとは気づかれないかもしれないが、明らかに焦っている様子)。本人は、コーチに一度にいうのではなくゆっくりひとつずつ教えてほしいとお願いしていた。
【本人から周囲に助けを求めるのが難しいので、適度に声かけしてほしい】
自分から助けて欲しいと意思表示をしたり、誰かに頼ることがどうしても難しいので、やはり周囲からの適度な声かけが必要になってくるんだ。
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【男子】17歳の保護者
コミュニケーションがうまくできないが、見た目は普通のため、また、本人も援助を求められないため、様々なことからおくれをとり、本人の自己肯定感が下がる。
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【男子】15歳の保護者
助けを求めるのが遅いから、適度に声掛けをして欲しい。
【一方で「普通に接してほしい」という声も】
ASDの子どもを特別扱いせず、他の子と変わらず普通に接してもらう方が気楽、という複雑な気持ちを抱えている保護者もいるんだね。
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【男子】6歳の保護者
障害児を受け入れている統合保育の園に通わせている。周りの保護者は優しく理解はあるが、子どもの事を話す時は「腫れ物を触るような気遣い」を感じ、自然と距離を取ってしまう。私は健常児も障害児も、それぞれの子育てに大変さがあると思っているので、普通に話してくれた方が気楽で良い。
ここまで生声を見てきてわかったことは、ASDの子どもの保護者にとって、子どものASD特性そのものよりも、社会や周囲の理解や対応についてのものが多いということ。ASDの子どもや保護者を取り巻く周囲の人たちや社会全体が、正しくASDに向き合っていくことが大切だよね。
それでは実際に、ASDの子どもの保護者はどのような支援を求めているのだろう。調査レポートの最終回となる次回は、ASDの子どもとその保護者のために周囲ができることは何かということを考えていくよ。
ASDと子育て実態調査・調査概要
調査手法: | インターネット調査 |
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調査エリア: | 全国 |
調査時期: | 2020年1月 |
調査対象者: | 0~22歳の子どもと同居する20~60代の保護者(男女) ①ASDと診断された子どもの親(n=545) ②典型発達の子どもの親(n=747) |
調査レポートに対する
専門家の声
今回のレポートの中で保護者さまの子育ての意識の上位に、正解のなさや不安が挙げられていました。子育てにおいては、特性の有無にかかわらず絶対の「正解」はなく、一人ひとり異なるお子さまとの間で試行錯誤しつつ関わっていくものです。
試行錯誤ですから、うまく関われた経験、うまく関われなかった経験それぞれが起きてきますが、ASDの子どもの保護者さまはお子さまの特性などから、そのバランスがうまく関われなかった経験に偏ってしまいがちです。その結果、不安や辛さにつながりやすいのではないかと思われます。
そしてそんな経験の中で見つけたうまくいく関わりについて、周囲にも理解してほしいと思いつつ、それが十分ではないことに悩まれているのではないかと思います。
【専門家プロフィール】
菅佐原 洋
公認心理師/臨床心理士/臨床発達心理士
LITALICOジュニア チーフスーパーバイザー
発達心理学や応用行動分析学を専門とし、発達障害のある子どもへの直接支援、幼・小・中学校教職員への特別支援アドバイザー、教育センター等での研修などに20年以上携わっている。また大学教員として、臨床心理士育成などに関わっており、現職においても支援に関わる指導員への研修やスーパーバイザーの育成の統括を担当している。