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ASDの子どもの「好きのパワー」エピソード
レポート3を通して、ASD(自閉症スペクトラム)の子どもの大きな特長に、「好き」なことには強い興味を持ってとことん突き詰めることが分かったね。ここまでは主に数字でASDの子どもたちのことを見てきたけど、今回は「好きのパワー」について、全国の親子から寄せられたエピソードを通して紹介していくよ。
子どもの数だけ「好き」がある!
ASDの子どもの個性的エピソード
ASDの子どもたちの「好きのパワー」は、いったいどれくらい力強いものなんだろう。それを知るためにASDの子どもの保護者にアンケートをしてみたら、たくさんの個性的なエピソードが集まったんだ。大きく8つに分類したから、ひとつずつ見ていこう。
<分類1:独自性> 個性的で、我が道を行く興味の対象
時にはくつしただったり、ダムや鉄塔だったり。子どもの数だけある、個性的すぎる興味の対象。好奇心のおもむくまま、探求を続けているんだね。
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【男子】9歳
タオルや、くつしたなどをひたすら折りたたむ。
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【女子】8歳
カードをパラパラ落とす。三輪車を縦に置いて前輪を回す。
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【男子】9歳
ダム、鉄塔、水力発電所、変電所。本や、DVD を見たり。実際に行ってダムカードを貰ったりしている。
<分類2:収集性> どこまでも狭く深く、自分だけの記録とコレクション
好きな対象への愛情は尽きることなく、細かくノートに記録したり、コレクションにして楽しんだりもするんだって。
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【女子】10歳
あるゲームキャラのお絵描きやグッズ収集。お絵描きは擬人化したり独特。グッズは、攻略本、クレーンゲーム景品は比較的入手しやすかったが、昔のスーパーファミコンのソフトを購入したいとゴネられた。
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【男子】15歳
某テレビ番組が大好き。過去の挑戦者の名前や結果、特徴を知っており紙にびっしり書いて大事にしている(※スポーツ系エンタメ番組)。
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【男子】7歳
車のナンバープレートを見るのが大好きで、日本全国のものを見たいと、表を作って見たものにチェック。都道府県に存在するナンバープレートを把握・そのナンバープレートを見た場所、日付もほぼ覚えている。
<分類3:記憶力> 驚異的な記憶力と、圧倒的な情報処理能力
興味がある好きな対象のことは一度で覚えてしまったり、情報を細かく整理して大人を驚かせちゃうこともあるんだ。
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【女子】16歳
本3冊を娘がパラパラ読んで「この本面白いね、全部読んだ」と言った。嘘だと思い「どこが面白かった?」と聞くと「○○ページにの○○」と開いて指したら、言葉にしたことが書いてあった。5〜6分で文庫本を読んだ。
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【男子】13歳
カレンダーに詳しく100年以上前から100年後まで正確に言うことができる。自分に関わる人や興味のある人の誕生日を1回で覚えることができる。
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【男子】9歳
好きなアニメの初期から現在の作画の違いの流れ、作画ミスの指摘、○期○話のタイトルを暗記する。
<分類4:没頭力> パッションが源泉、途切れることない集中力
好きなことなら飽きることなく、時間を忘れてのめり込んでしまう。そんな果てしない没頭力を持っているというエピソードだよ。
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【女子】17歳
月や天文学に特に興味をもち、月や星の動きを何時間も眺めている。
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【男子】11歳
1日何時間もベランダから車を見る。車種はもちろんマイナーチェンジしたものなど細かい分類ができる。雑誌を見てデータも覚えている。
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【女子】11歳
編み物。やりだすとでき上がるまで集中。疲れていないと言い、ずっと続けている。編み針は苦手みたいで手で編むやり方を本で学び実践している。
<分類5:熟達度> 細かなこだわりが生む、豊富な知識とテクニック
好きなことへのこだわりが強すぎて、その道を極めてしまう子どもたちがいるんだって。興味を持った対象のことを知り尽くしたい気持ちが強いんだね。
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【女子】16歳
メイクに関する知識や情報量が高校生とは思えない。テクニックがすごい。
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【男子】9歳
数字に関する全般。算数、時計、電車の時刻表などが好き。
家にいて暇さえあればノートやチラシの裏紙に数字の羅列を書いている。 -
【男子】8歳
A社の車の種類を覚えて動画を見て車の説明を覚えてずっと話している。
A社の店頭にあるカタログを集めている。何故かA社の車限定。
<分類6:再現性> 見るだけでは足りなくて、自分でつくって再現
好きが高じて、興味の対象を自分でつくって自分なりに再現しないと気が済まない、そんな子どもたちもいるみたい。
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【男子】10歳
モノポリーにはまり、自分で同じようなものを製作して人にやらせようとしている。
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【女子】10歳
ハウジングセンターなどにいき、住宅の間取り図などの冊子をもらい、構造や間取り図など読み込む。自分でも間取り図を書いたりしている。
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【男子】8歳
車の玩具で道路風景の再現。色々な場面(工事現場、渋滞、事故現場、火災現場)を何台も車を使って楽しそうに再現しています。
<分類7:想像力> 旅にも出られるほどの想像のチカラ
地図を見ながら想像力を膨らませて、一人で旅に出るシミュレーションをしているんだって。
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【男子】9歳
スマホやタブレットでGoogleマップを開き、線路を辿ったり高速道路を辿って目的地までスクロールで到着する、という事にハマっていて、北海道~九州まで辿り着いたりする。
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【男子】10歳
鉄道に関しては大人並みの知識がある事。自分の想像の中での世界で作ったものは見ていて面白い。
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【男子】11歳
路線図や地図を見ること。ポケットサイズの地図を東京都と神奈川県、2冊を見ながら旅のシミュレーションをしている。
<分類8:発信> 自分の好き!を独り占めせずみんなに発信
好きになって詳しくなった対象については、自分だけのものにしないでみんなにも発信していきたい子どもたちも。
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【男子】13歳
幼少期から電車が大好き。一人でフリーパスを使って一日中電車乗り放題の旅をしている。自宅ではプラレールを走らせ、その様子を動画撮影し、いずれはYouTubeで配信したいと言っている。
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【女子】8歳
ぬいぐるみでごっこ遊び、それを動画で撮るYouTuberごっこ。
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【男子】17歳
今はYouTubeをとにかく観まくる。定期的にYouTuberとして動画を流す事もある。チャットをしながら実況をしたり、あまり長い時は編集をしてから動画にアップする事もある。比較的、視聴者さんとのコミュニケーションはとれており、主にゲームの実況をやっている。
ASDの子どもが持っている「好きのパワー」は、これだけ多様で個性的なんだね。ASDと一言でまとめても、好きの対象やアプローチの仕方は一人一人まったく違うんだ。自分なりの「好き」を見つけることで、想像を超える力を持って学びを深めたり突き詰めたりしていくことができるんだね。
保護者が感動!
ASDの子どもの優しさエピソード
ASDの子どもたちが持っている、優しい一面だったりまっすぐな感性が現れたエピソードも集めてみたよ。「好きのパワー」だけではなく、ASDの子どもたちの優しさを感じられるものばかり。
<思いやり> 家族想い・友達想いで細やかな気配りができる
人への思いやりだったり、誰かのことを考えた行動だったり。そんな成長を感じられた瞬間は保護者にとっても印象的だったと、たくさんエピソードを寄せてくれたよ。
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【男子】18歳
小6の時、学級会で泣いて訴えていた子がいた。チャイムが鳴りクラスメイトが運動場に遊びに行こうとしたのを見て、「泣いてる子がいて、まだ解決してないのに、どうして笑顔で遊びに行けるんだ!」と泣きながら叫んだそうです。
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【女子】15歳
妹とは普段ケンカをよくしてますが、妹が怒られているとすぐそばに寄って、なぐさめたりかばったりしてくれます。
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【男子】6歳
誕生日、おばあちゃんから絵本が送られてきた。でもその絵本は家で私が買った本と同じ。その時息子は「家に同じのあるって言ったらおばあちゃんショックを受けるから、ありがとう!って言っとこうね」と。保育園での出来事。私が仕事に行く前に保育園でバイバイすると「ママ、お仕事楽しんでね」と。お仕事頑張ってじゃないの?って聞いたら、「ママ最近忙しそうだから。頑張ってって言われなくてもママは頑張ってるから。だから楽しんでにした」と。
<ピュアさ> 人を疑わず、ピュアでまっすぐなところがある
大人が心配してしまうほど素直でまっすぐに、友達や、はたまた道端のどんぐりとまで接してしまう。そんなピュアなエピソードもたくさんあるんだ。
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【女子】12歳
もらったものでも欲しい物じゃないと、うれしそうな顔をしないが、欲しい物だと、とても喜ぶ。夕飯も好きな物だととても喜ぶ。
食べ物は大好きなので。ほんとうに、うれしそう。 -
【男子】15歳
悪いことも良いことも素直に受け止め、疑ってかからないこと。計算高くなく「素直で優しく思いやりがある」その反面、騙されないか心配になる。
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【男子】7歳
落ちているどんぐりや石など、感情を持たないものによく話しかける事がある。いつも、「1人で寂しくない?」「かわいい形だね、色もいいね」と優しい言葉をかけている。
「好きのパワー」と「まっすぐな純粋さ」。具体的なエピソードを知ることで、ASDの子どもたちのことを少し深く理解できたんじゃないかな。
ASDの子どもの保護者が願う、
「好きを伸ばして自分の役割を
見つけられるように」
このレポートの最後に、保護者がASDの子どもの将来に対してどんなことを期待しているかをまとめるよ。
1位は「親元を離れてからも日常生活を送れるようになってほしい(70.3%)」だったよ。典型発達の子どもに比べて、15ポイント以上も高い数値になっているね。次に注目したいのが、5位の「周囲の助けを求められるようになってほしい(60.7%)」だよ。こちらは典型発達の子どもに比べて2倍近い数値になっているよ。
他にも、典型発達の子どもとの差があったものとして、2位の「好きなことを伸ばしていってほしい(65.9%)」や8位「何か一つのことでよいので極めてほしい(36.3%)」、9位「自分の果たすべき役割があると感じてほしい(36.1%)」があげられるよ。
「周囲の助けを借りながら、日常生活を送れるようになってほしい」「好きなことを育んで、自分の果たすべき役割を感じてほしい」というASDの子どもをもつ保護者の願いが見えてきたね。
こうした願いを叶えていくためには、周囲の人たちや社会全体のASDの理解や支援がとても大切なんだ。次のレポートでは、ASDの子どもやその保護者がもっと過ごしやすい世の中になるために、具体的にどんなサポートが必要か一緒に考えていくよ。
ASDと子育て実態調査・調査概要
調査手法: | インターネット調査 |
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調査エリア: | 全国 |
調査時期: | 2020年1月 |
調査対象者: | 0~22歳の子どもと同居する20~60代の保護者(男女) ①ASDと診断された子どもの親(n=545) ②典型発達の子どもの親(n=747) |
調査レポートに対する
専門家の声
ASDの特徴として、社会的なコミュニケーションの苦手さが挙げられますが、苦手=全くできないわけではありません。「いつでも」「誰にでも」とはなりにくいかもしれませんが、家族や友だちとのやりとりや日常生活での経験や学びを通じて、優しい一面に挙げられているようなやりとりにもつながっていきます。
また、ASDに限らず特性のあるお子さまの保護者に対し、家族以外にサポートをしてくれる人がいることが精神的な健康度の高さに影響することも報告されています。その点でも周囲の人たちの理解やサポートは重要と言えます。
【専門家プロフィール】
菅佐原 洋
公認心理師/臨床心理士/臨床発達心理士
LITALICOジュニア チーフスーパーバイザー
発達心理学や応用行動分析学を専門とし、発達障害のある子どもへの直接支援、幼・小・中学校教職員への特別支援アドバイザー、教育センター等での研修などに20年以上携わっている。また大学教員として、臨床心理士育成などに関わっており、現職においても支援に関わる指導員への研修やスーパーバイザーの育成の統括を担当している。