どんな特徴が理解されていない?
ASD理解ギャップを具体検証
レポート1では、当事者とそうじゃない人でASD(自閉症スペクトラム)の理解のギャップが大きいことが分かったよね。ここからはASDのどんな特性は知られていて、理解ギャップのある特性は何なのかを具体的に見ていこう。調べていく中でASDの困りごとも少しずつ見えてきたよ。
理解ギャップが大きい項目は、
「周囲の対応方法」
保護者がASDについてどの程度理解しているかを知るために、行動の特性や周囲の対応方法など、29項目のASDの特徴をリスト化してアンケートをしてみたんだ。
ASDの特徴リスト
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社会性や行動特性について
- ・社会的なコミュニケーションや他の人とのやりとりが上手くできないことがある
- ・乳幼児期から、視線を合わせない、指差しをしないなど、特徴的な行動傾向がみられる
- ・一度決めたやり方やルールにこだわり、変化を受け入れられないことがある
- ・興味や活動が偏ることがある(好き/ 嫌いや、興味のあり/ なしがはっきりしている)
- ・発達の特性のある人の「選好性」は、大多数とは異なっていることが多い
- ・一見、無意味と思えるような動作にこだわり、それを繰り返す行動がみられることがある
- ・音やにおいに対する感覚過敏や、痛みや熱に対する感覚が鈍いことがある
- ・特性を持っている人は、日常生活において「生きづらさ」を感じていることが多い
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周囲のケアやサポートについて
- ・診断名はあくまでも基準であって、一人ひとりの個性に合わせた対応が理想的
- ・発達の特性自体が「障害」になるとは限らず、周囲の不理解や自尊心の傷つきを減らすことが重要
- ・発達の特性のある人の「選好性」の違いを認識することで、環境調整がうまくいきやすい
- ・日常生活における「生きづらさ」は周りの理解や環境を上手に調整することで軽減されることも多い
- ・絵や図で示す、具体的に指示するなどの接し方が望ましい
- ・行動を切り替えるタイミングを知らせておく、見通しを持たせるなどが重要である
- ・生活のパターン化、手順の明確化など、日常生活をスムーズに送るための工夫があると行動しやすい
- ・自分のできることはきちんと実践し、苦手なものは無理をせず相談することで、生きやすくなる
- ・成人でも、環境調整や対人関係スキルの獲得によって、困りごとの軽減を目指す
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特性の現れ方や診断について
- ・特性や症状の現れ方には個人差があり、軽度の人から重度の人まで幅が広い
- ・知的障害やADHD、学習障害やてんかんなどが併存する場合もある
- ・問診や心理検査などを通して医療機関で診断される
- ・親の育て方が原因ではなく、感情や認知といった部分に関与する脳の特性と考えられる
- ・生活に支障があるほどイライラしてしまう場合や二次性の精神障害に対して薬物療法を行うことがある
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典型発達との境界について
- ・診断されずに、「個性」「個性の延長」として、日常生活を送っている人も多い
- ・特性は、脳の特徴によって出現しており、少数派(マイノリティ)の種族という捉え方もある
- ・普通と呼ばれるものを「多数派」、発達の特性によるものを「少数派」とすると、優劣の差はない
- ・「普通=みんなと同じ」ではなく、多様性(ダイバーシティ)を尊重する考え方も注目されている
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社会的支援や福祉について
- ・学校で特別支援を受けることがある
- ・保育園や幼稚園、学校以外の施設で療育を受けることがある
- ・個人差に応じて、「環境調整」「療育福祉サービス」「医学的な治療」と対応方法は様々である
まずは典型発達の子どもの保護者にとって、ASDの特性について理解度が高いものを整理した結果がこちら。
「1位:他の人とのやりとりの難しさ(47.5%)」、「3位:変化を受け入れる難しさ(42.6%)」、「4位:興味や活動の偏り(42.3%)」と、ASDの子どもとのコミュニケーションの中で、表立って見えやすい特性が上位に来ているね。
これらの特性は典型発達の子どもの保護者の4割以上が理解しているから、ある程度当事者以外にもASDへの理解が浸透しているようだね。
そして5位となった、診断はされずに個性の延長として日常生活を送っている人たちの存在も、39.9%と一定数認知があることが分かるね。
次に、典型発達の子どもの保護者とASDの子どもの保護者で理解度のギャップが大きい項目を調べてみたよ。すると、「周囲の対応方法」の理解ギャップが大きいことがわかったんだ。
具体的には「2位:見通しを持たせる」、「3位:周囲の不理解を減らす」「5位:分かりやすく具体的に示す」の理解ギャップが大きかったよ。
ASDの特徴を詳しく理解して対応できる人が周囲にも増えていくと、ASDの子どもや保護者も過ごしやすくなるかもしれないね
グレーゾーンの子どもの
保護者との理解ギャップ
次は、レポート1でおよそ20人に1人いると確認できた、「グレーゾーン」の子どもの保護者(診断はないけれど子どもにASDの疑いがあると感じている保護者)についても見ていこう。
典型発達の子どもの保護者とのギャップが大きかったもののうち、特に気になるのが「2位:診断されずに個性・個性の延長として日常生活を送っている人も多い」なんだ。このレポートのひとつめの調査結果「典型発達の子どもの保護者によるASDの理解内容TOP5」を見ると、およそ4割の典型発達の子どもの保護者がこのことを理解しているのだけど、グレーゾーンの子どもの保護者と比べるとまだまだ理解が足りていないということが分かるね。
また、3位から5位を見てみると、周囲の対応方法や社会的支援の項目で、両者の差が大きいことが読み取れる結果になったよ。今はまだギャップが大きいからこそ、周囲がASDを正しく理解してサポートすることで、生きづらさが軽減したり、ASDの特性も子どもの「個性」として前向きに捉えやすくなったりするのかもしれないね。
6割以上の保護者が
ASD特性を「強み」だと
感じることも
最後にもうひとつ調査結果を紹介するよ。ASDの診断がある子どもをもつ保護者の6割以上が、その特性を「強み」に感じることがあると回答しているんだ。特性の内容と現れ方にばらつきがあるASDだけど、それがポジティブに働く場面もきっと少なくないんだね。
次のレポートでは、ASDの子どもたちの特性のポジティブな面について調べた結果をまとめていくよ。とても発見の多いレポートになりそうだから、楽しみに待っていてね。
ASDと子育て実態調査・調査概要
調査手法: | インターネット調査 |
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調査エリア: | 全国 |
調査時期: | 2020年1月 |
調査対象者: | 0~22歳の子どもと同居する20~60代の保護者(男女) ①ASDと診断された子どもの親(n=545) ②典型発達の子どもの親(n=747) |
調査レポートに対する
専門家の声
ASDの診断基準の中に、人と関わる、友だちを作る、交友関係を維持するといった「社会的なコミュニケーションの問題」と特定のものやルールに強くこだわってしまうといった「こだわりの問題」の2つがあります。典型発達の子どもの保護者にとって、ASDの特性について理解度が高いものを見ると、診断基準に対応する特性の理解が広がっていることを示す結果になったと考えられます。
同じ特性でも周囲が強みと捉えられるか、弱みとしてしまうかは保護者も含めた周囲の見方次第。特に苦手や弱みと捉えてしまうと、それをなくす、減らすことにばかりに気持ちが向かいやすく、子ども自身も保護者もつらくなってしまいがちです。強みに目を向ける視点が重要になります。
【専門家プロフィール】
菅佐原 洋
公認心理師/臨床心理士/臨床発達心理士
LITALICOジュニア チーフスーパーバイザー
発達心理学や応用行動分析学を専門とし、発達障害のある子どもへの直接支援、幼・小・中学校教職員への特別支援アドバイザー、教育センター等での研修などに20年以上携わっている。また大学教員として、臨床心理士育成などに関わっており、現職においても支援に関わる指導員への研修やスーパーバイザーの育成の統括を担当している。